9の続き
描写では大胆にも割愛しましたが、
このいいお日和の中を、小一時間ほど掛けて あちこちの量販店を回り、
卸専門店らしいところへも、
型番や品番を言って、ああそれならという在庫を覗かせていただき。
チェックしていた商品の実物は、殆ど見て回ってののち、
最初のお店へ戻ることとなったお二人だった訳であり。
「こういうのは無駄足とは申しません。」
「そだね、色んなところで楽しかったしvv」
お店とお店の間は暑かったが、それぞれのお店では冷房が効いていたし。
実演販売に見ほれたり、便利グッズに はしゃいだり感心したりと、
ホームセンターや文具センター、
百均ショップの豪華版を遊覧したようなものだったので。
それはそれで楽しい“ウィンドウ・ショッピング”を堪能出来たし。
大型液晶テレビやブルーレイ・デッキとか、
平日の昼間はちょっぴり手持ち無沙汰ならしい売り場の店員さんからは、
売る気は抜きでの 開発中の新製品のお話とかもちろりと聞けたし。
そんなこんなで 一番の目的だったお買い物も無事に済み、
そろそろお昼だねと、定食屋さんへ入って
夏野菜のテンプラつき釜揚げうどんを頂きながら、
「このまま真っ直ぐ帰るの?」
イエスがそうと訊いて来て、
「う〜ん、どうしようねぇ。」
ブッダが う〜んと微妙に唸る。
結構あちこち歩き回りはしたが、
御用優先という街歩きだったので、
イエスとしては まだ観て回りたいところがあるような。
どうするの?と訊きつつも、
ねえねえという“おねだりモード”なのが ありありしている雰囲気であり、
見えない尻尾がはたはた振れているのが、仏様には余裕で見えたほど。
「…しょうがないなぁ。/////////」
こういう眸をした小さき者に弱いって、彼には知り尽くされてるもんねと、
せめてもの言い訳が出てしまい。
ならば ここは上手に丸め込まれてしまおうかと持ってく辺りが、
やっぱりメシア様に お弱い釈迦牟尼様であり。
「じゃあ、もうちょっとだけ、
疲れない程度に回ってみようか?」
「やたっ!」
たちまち嬉しそうになるんだから現金だねぇと、
それもまた 判っていたればこそ、
喜色満面な彼を見たくて選んだ選択肢のはずだのに。
“……。”
好きなもの目当ての“嬉しい”なのが、微妙に微妙な感慨なので。
あんまり喜ばしくはないんだけどなぁなんて、
細分化されている悦への感触の中、
随分と切ない系もどかしい部門への配分を感じてしまう。
いやそんな、一体何へ もやんと嫉妬しているかな自分。
いっそのこと、
私もイエスの好き好きへ どっぷりダイブしてみればいいのかも。
ほら、イエスが小首を傾げているし…と。
それへ くすすと微笑って見せて、
「ああほら、髭にテンプラ。」
「ありゃ。///////」
いつもの調子でブッダが手を延べ、
イエスも動かず じっとの体勢になり。
慣れた手つきで摘まみ取ってあげてから、
はたと…双方で気が付いて。
「………。」
「えっとぉ。////////」
何せランチタイムの真ん中で、
皆さんもご自分の食事と
せいぜい連れとの会話を優先してらっしゃるからして、
別段 人目はないも等しかったのだけれども。
だからと言って、家でやってるようにも行かぬかと、
微妙にフリーズしてから、出た結論は。
「…はい。」
「う、うん。//////」
イエスが手を延べ、そこへどうぞと進呈された
元はシシトウのヘタから伸びてた細長い衣のかけらは、
そのままポイと、ヨシュア様の口へ投じられたのでございました。
いやいや、どっちにしたってvv
こんなん目撃したら萌えてしまうというお人も
少なからず あっただろうにね。(苦笑)
◇◇
テーマパークや遊園地ではないけれど、
街一つ丸ごとという規模にて、
特撮ファンやアニメファン、PCゲームやネトゲファンへは、
他では得にくいフェロモンがいっぱいvv
興味をそそってやまぬよな体裁の、
お店や看板などなどで視界の全部が埋まってるようなものと来て。
「わ、ほらあっち♪」
「え? あ・ちょっと待って。」
家電のお店巡りより明らかにテンションを上げたイエスが、
せめて一目散に駆け出さぬようにと。
距離が開きかかるたび、
ついのこととて、彼のシャツへと手が伸びるブッダであり。
“だってさすがに、手をつなぐのはねぇ。///////”
人の流れに乗っての移動中ならいざ知らず、
そういう群れを追い抜き追い越せというノリで駆け出す人が相手。
せめてもの意思表示にと、声を掛けつつ、
さすがに髪にはあたらぬよう避けての、
背中か、半袖シャツの肘にあたる辺りを捕まえようと手を伸ばせば。
空振りしても気配は届くか、
「あ、ごめんね。///////」
キミを忘れた訳じゃないと、
振り返ってちゃんと立ち止まってくれる彼なので。
うん それは判ってるよと、
そこから一緒にお目当てへと急ぐだけのこと。
「劇場版公開中で〜すvv」
「スピンオフシリーズのブルーレイも近々出ま〜すvv」
そんな宣伝をしつつ、でもでもだからと言って、
公式宣伝部から来ているプロとは限らぬらしい、
様々なキャラにコスプレした
リアル(?)スーツアクターさんたちが立っているわ。
数あるゲームソフトショップでは、
こちらも様々な新作ゲームの大画面デモ動画が 店頭で公開されていて。
ブッダ様お気に入りの“子犬といっしょ”シリーズも、
サバイバルVer.とやらが出るらしいとのことで、
“今度は戦争だ!”という煽りと共に、
開発中のデモ動画が店頭で流されており。
「これはこれは…。/////」
ブッダが多大な期待に胸をときめかせ、
お顔を紅潮させている傍らで、
“これはこれは…。”
野良犬といっしょでもびっくりしたのに、
一体 誰の心の琴線へ触れて、こうまでのものが開発されたんだろうねと。
これにばかりは やや引いていたイエス様だったりもして。(笑)
「いいのかい? 戦争だなんて言ってるゲーム…。」
「そこを説き伏せるのですよ。
飼い慣らすのではない、
あくまでも個と個との真剣な対峙と言いますか。」
ふっふっふ…っと、やっぱり期待も大きそうに頬笑んでおいでな辺り、
こういう方向で“戦う如来様”だったのでしょうか、ブッダ様。(う〜ん)
「じゃ、じゃあ、何かゲームでもやって行こうか?」
気を逸らそうと、すぐお隣のゲームセンターへ踏み込めば、
たまたまのことながら、ケーブルテレビらしい撮影クルーらが、
“クレーンゲーム攻略!”なんていう取材をしておいでで。
「あら、お暇ですか? ちょっといいですか?」
何せ異邦人なので、素材としては目立つ二人だ。
しかも話し始めれば日本語も堪能と来て、
おいでおいでされての 素人代表という格好で、
番組の主役らしきゲームマスターさんとやらから
大きな箱ものを攻略する秘伝とやらを教えられた。
「そうそう、そうやってパッケージの対角線上の一角へ力を掛けて。
上手いですね、こちらのカチューシャの方。」
「は、はあ…。///////」
出演料の代わりだと、
今週お目見えしたばかりだというそのグッズ、
大ヒット中の魔法少女ものからの
“変身タクトと魔法のオーブセット”をいただいてしまって。
「…愛子ちゃんにあげようね。」
「そうだね。」
関心があればいいんだけど。
なければ ご近所の誰かに…と苦笑しながら、
外へと踏み出せば、
「きゃあん、こちら可愛いvv」
「あ、ホントだvv」
「えっとぉ、どの作品のコスプレなのかな?」
「螺髪のウィッグなんて凝ってるもの、
絶対絶対“▽▽への道”の 如来様ですよね?」
「じゃあじゃあ、
こちらのおにいさんは“◎◎◎オブ ロード”の賢者様?」
「あ、アタシもそう思ったニャンvv」
それぞれに青やピンクの髪をしたロリータ風のお衣装の、
だがだが 決して客引きではなく、
そちらさんもまた素人の観光客だったらしいお嬢さんたちから
腕を取られての逆ナンパをされかかり。
《 こ、これはもしや、
父さんにバベられかかっているゾーンとか?》
《 そうかも知れないね。
ところどころは日本語なのに…。》
理解不能な語句がいっぱいだったのを指してのこと、
あまりに繁栄が過ぎてのこと、人が驕ってしまわぬようにと、
イエス様のお父様、つまりは神様が
言葉が通じぬようにという制裁を下されたのかと。
これまた勝手に思い込んだ二人が、
お顔を引きつらせ、あわわと青ざめていたものだから、
「これこれ、そこのお嬢さんたち。」
度が過ぎると迷惑防止条例ものだから、と。
外人さんが困惑しているのを見かねたらしい地元の人が、
何とか穏便に引きはがしてくださって。(う〜ん)
そんなこんなという すっとんぱったんに揉まれつつ、
それでも楽しい遊覧行脚は、
街の端から駅までという広範囲をお元気にも網羅しておいで。
一端は中通りへ逸れていたものが、
大きな通りへまで戻って来たがため、
やっと安穏なコースに入ったかと思いきや、
「あ、あれって何かな。」
確か、車の行き来を止めての歩行者天国は、週末や祭日だけのはず。
だっていうのに、大通りの一角に人だかりが出来ていて、
この汗ばむ陽気の中、
何のキャラクターか、耳つきカチューシャを頭へ装備したお兄さんや、
ティアラを冠して なのに風船を配っているお姉さんが、
さあどうぞどうぞと呼び込みをしておいでのテントがあって。
どうやら何かしらの販促か宣伝を兼ねて、
道路を借り切るという規模での小さなイベントを設けてらっしゃるらしく。
「未来の乗り物、セグウェイへの試乗はいかがですか?」
「来週公開、☆☆の冒険に登場します。」
「皆さんも未来体験が出来ますよ?」
そんなお声が聞こえて来たのへ、イエスがあっと口を真ん丸に開ける。
何が何だか、一向に見えて来ないうちからとあって、
「何なに、キミ知ってるの?」
「うんvv ちょっと不思議な乗りもののことだよvv」
大人による人だかりが分厚いので、
なかなか そのものへまでは視線が届かぬものだから。
どう言ったら良いのかなと
口許のお髭の縁をちょいちょいと指先で撫でていた彼だったが、
「あのね、こうやって。」
まるで体脂肪を測定する体重計へ乗った人のように、
両手を軽く握った格好もそのままに、両腕を前へ延ばして見せて。
「大きめの車輪が左右についてるボードに立って、
その足元からピンと伸びてる、
スタンドマイクみたいなT字のハンドルに掴まって操作するんだ。」
「???」
スケボーやラインスケートや、
時々乱暴な走行が問題になっているキックボードより本格的な“乗り物”で、
モーター駆動だが 電動式自転車でもないからか、
今のところ、日本ではまだ公道では乗れないという不思議な車。
立ち乗りの二輪車で、
アクセルもブレーキもなく、重心移動で操作する。
前進したいなら体を前へと倒し、
曲がりたければハンドルをそちらへ向ければよくて、
停止するなら やや後方へ体を傾けるだけ。
慣れて来ればその場で回るなど、小回りの利いた自在な動きも出来、
小型で知られるリチウムイオンの充電バッテリーを使うため、
排気もなくて環境に優しいため、
国内でも どこだったか自然公園で、
園内をこれで回れるというところがあったんじゃなかったか。
インストラクターさんのコーチを受けつつ、
短いコースを取られた道を 行って帰って来るのを楽しめるそうで。
「はい、そちらのお二人さんもどうですか?」
「いいお土産話になりますよ?」
この年齢でコスプレイヤーだとはさすがに思われなんだか、
その代わり、やはりやはり海外からの観光客だと思われたらしく。
「難しいんじゃないんですか?」
「大丈夫です、大丈夫。」
「つま先、かかとって
支点にするコツを覚えたら、楽勝ですから。」
質問したのが、好奇心ありと見なされたものか。
平日の、しかもこの陽気で
人出がやや途切れていたらしい暇を埋めたかったらしい係の人たちが
数人掛かりでコーチングしてくださるらしく。
「あらまあ…。」
さあさあ どうぞと、
ブッダ様の愛しいお人が攫われてってしまい。
天部最強には引けない腰の強さも、善意の人らには弱いんですね、うん。
テントの裏手に設けられた小さなロータリーで、
ボードの上へ乗っかって判ったのが、
なかなか制御が難しく、うっかりハンドルだけを倒し過ぎると
いきなりスピードが出るものだから。
ヘルメットや肘と膝へのサポーターも大仰じゃあないらしいと、
今になって緊張しつつ、あわわ・あわわと よたよた操作していたものの。
“…あ、そっか。”
難しい仕組みではないというのは ようよう判り、
足の裏を意識して体を傾けるだけというの、
何とはなく体現出来れば、もうこっちのもの、だそうで。
「うん…思う方向へ曲がれるよになったvv」
「ええ、上手ですよ。はい こっちへ。そうそうそう♪」
優雅に延べられる手のほうへ
見たまま体を傾ける練習を何度か重ねれば、確かに呼吸は掴めたし。
じゃあ走ってみましょうかと練習後の人が向かうのは、
どうやら大通りの一部という直線コースのようなので。
それなら特にフェイントもなくの簡単なもの。
順番が来て、イエスもさあどうぞという誘導に招かれ、
ややぎこちないままながらもスタート地点まで進み出れば、
「……あ。」
待ってる間も不安だったか、
案じるような眼差しでブッダが見上げてくるのと眸が合って。
“えと、大丈夫…だからね。”
心配しないでと微笑ったその途端、気が散ったのが不味かったか、
バーへ凭れる格好になったものだから、いきなりマシンが加速して前進しだす。
“え?え?え?え?え?”
そこまで覚えてはなかったか、
実は 体を前へ倒せば倒すほど加速がつく代物で。
何と言っても支えは真っ直ぐ立つハンドルだけなので、
ついついそれへと体を預けるものだから、
止まるどころか加速しかしないという悪循環。
まだほんの数mしか進んじゃあいなかったが、
それでもこれはヤバイとばかり、
ひやぁあ〜〜〜っと冷汗もので焦った彼だったのを、
「…っ。」
その横顔だけで素早く察知して。
何を思ったブッダだったか、
隣のコースを折り返して戻って来た人が降り立った機体へ、
「すみませんっ」
横合いから手を伸ばし、
ひょいと飛び乗ったそのまんま、その身を前へと倒して加速を掛ける。
「あ、お客様?」
「練習しないと危な……っ」
制止の声も振り切って、防具もないまま、ぐいとハンドルを前へと倒す。
先に駆けてったイエスのマシンを、追わねばと感じたその機転の、
何とも素早かったことったら。
意志へそれはなめらかに連動する身ごなしも華麗で、
神将に匹敵する武道センスはいまだ健在というところか。
その一方で、
「わわっ、止まらないよぉ〜。」
こんな状態で後ろへのけ反れと言われても、それもまた結構怖くてなかなか出来ぬ。
頭では判っているが、何か無理だと焦っておれば、
「イエス、ここへ凭れて。」
「え?」
いつの間にか追いついていたもう一機。
掛けられた声で、それが誰かはすぐにも知れた。
「ぶっだぁ〜。」
いっそ前へ転んでしまおうと思ったのにそれもならない不思議な車。
神の乗る熾天使の車でも こうまで制御出来なくはならないぞと、
背条を凍らせかかっていたところへ追いついてくれた
頼もしい人に安堵しておれば。
大きな車輪が触れるか触れないかというほど近づいて、
そのままの距離を保ちつつ、併走を続ける位置取りをすると、
横から延ばされた腕があり、
「イエス、ここへ凭れて。」
さっきの言葉を繰り返す。
「私が力持ちなのは知ってるでしょう?」
「で、でもっ!」
ほんの先日、それにまつわるちょっとした悶着もありはしたけれど、
それはその時、それこそ納得し合ったことでもあって。
「…。」
何をと改めて言いもしなけりゃ確かめもしないまま、
お互いの眼差し、ちらと見やってから、
「…うんっ。」
ほぼすぐにというほどの速攻で意を決し、
緊張に固まったままの身を 後ろへと引いたのが功を奏して。
「……………………………あ。」
そのまま突っ込んで来るものかと、
目いっぱい警戒したらしき、終着点の車止め担当のお兄さんたちが、
分厚いクッションを何人もがかりで立ち上げて待ち構えていた手前で、
魔法のマシンはぴたりと止まり。
「あ…。」
「ぶっだぁ〜。////////」
ちなみに、ブッダの側のマシンも止まったのは、
イエスが凭れかかって来ると予想し、
しっかり止まって受け止めなくちゃと、踵に力が入ったからで。
さほど凭れては来ないうちの出来事だったので、
あれあれ?とキツネにつままれたようにキョトンとしておれば。
怖かったのか、追いついた彼の名を呼び、
そっちを向いたら、マシンも素直にグリンとその場で小回りしてくれて。
ただ、
「っ、そのまま前へ倒れてはっ!」
今度こそ惨事になるぞと、
間近に居合わせた皆様がひゃあぁああっと悲鳴を上げたものの。
「まあまあ、ちょっと待ってイエス。」
「え?」
あえて言うなら宙ぶらりん。
飛びつこうとしかかったはずが、
だがだが その身は何かに引き留められての前へ進めぬ。
何で?と、子犬みたいに きゅう〜んという鼻声を出しておれば、
目の前の深瑠璃色の双眸が柔らかくたわめられ、
“…あ、そっか。///////”
素早く延ばされた彼の腕が、
抱きとめ、抱きしめるのを通り越し、
そちら側からあらためて、
イエスの来ていたシャツの背を、
ぐいと掴んで引き留めたからだと。
前脚を通すタイプの手綱、
ハーネスを引かれた大型わんこのような状態だと、
遅ればせながら気がついて。
「あ、ありがとね。」
至れり尽くせり、何から何までとフォローしてもらったのへ、
さすがに恐縮しきりでお礼を告げれば。
「ううん。」
かぶりを振ったそのまま、深々と吐息をついたブッダ様。
やっと捕まえられたイエスに気が緩んだか、
「無事でよかった。////////」
それだけで何よりだよと、
萎えた肩の線が見るからに落っこちたのだった。
お題 * 『つかまえた♪』
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*こんなところに何ですが、
テーマというか主旨こそ違いますが、
ポンペイとか ノアの方舟とか、
壮大な映画の公開が立て続いておりますね。
イエス様は観に行くんだろうか。
めーるふぉーむvv
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